鼠径ヘルニア(脱腸)の手術方法:日本と国際ガイドラインとの比較

鼠径ヘルニア

質問

鼠径ヘルニアの手術を検討している患者「鼠径ヘルニアの手術を受ける予定ですが、どの手術方法がいいですか?」

こうした疑問に答えます。

本記事の内容

鼠径ヘルニアの手術は、腹腔鏡下手術鼠径部切開法に大きく分けられ、多種多様な手術方法があります。「どの手術がいいのか?」は、なかなか難しい選択です。

様々な鼠径ヘルニア手術を経験してきた私が答えます。

日本の鼠径ヘルニアガイドラインは?

紙

まず、最も重要な指針となる、日本の鼠径ヘルニアガイドラインを見てみましょう。

日本の鼠径ヘルニアガイドライン

・推奨される手術は、再発率が低く、合併症の発生が少ない術式。
・組織縫合法は推奨できない。
鼠径部切開法(リヒテンシュタイン法、プラグ法、PHS法、UHS法、TIPP法、ダイレクトクーゲル法、クーゲル法)の手術成績は術式間で大きな差はなく術者が習熟した術式を行うことが勧められる
腹腔鏡下手術(TAPP法、TEP法)は手技に十分習熟した外科医が実施する場合には推奨できる。TAPP法とTEPは同等。
腹腔鏡下手術は鼠径部切開法と比較すると、手術時間が長いものの、術後疼痛、神経損傷、慢性疼痛は軽度で回復が早く、早期社会復帰に適している。医療コストは高いものの、術後疼痛の軽減、早期回復、早期社会復帰による社会医療経済的側面は優れている。ヘルニア再発率は同等。周術期合併症は同等または増加する可能性があるが、術後合併症は減少する。

以上をまとめると、鼠径部切開法と腹腔鏡下手術の中で術者が習熟した方法で行うことが推奨されています。

この日本の鼠径ヘルニアガイドラインは、鼠径部ヘルニア診療ガイドライン2015(金原出版)で、日本ヘルニア学会が公表しています。
» 鼠径部ヘルニア診療ガイドライン2015(フリー)はこちら

国際的な鼠径ヘルニアガイドラインは?

世界

次に、国際的な鼠径ヘルニアガイドラインを見てみましょう。

国際的な鼠径ヘルニアガイドライン

・推奨される手術については、合併症(痛み、再発)のリスク、習得が容易、迅速な回復、再現性のある結果、費用対効果を考慮する必要がある。
・組織縫合法は推奨できないが、メッシュが使えない場合は再発率の低いショルダイス法を勧める。
鼠径部切開法ではリヒテンシュタイン法を推奨し、他は推奨できない。プラグ法・PHS法はリヒテンシュタイン法と比較して、再発率や慢性疼痛は同等だが、異物量が多く、オンレイとアンダーレイの両方に瘢痕ができるため推奨できない。ダイレクトクーゲル法・TIPP法・クーゲル法はリヒテンシュタイン法と比較して、痛みが少なく、回復が早いが、コストが高く、形状記憶リングに注意が必要で、推奨できない。
腹腔鏡下手術(TAPP法、TEP法)は十分な技術・経験のある外科医が行えば推奨される。TAPP法とTEP法は、手術時間、合併症のリスク、術後疼痛、慢性疼痛、再発率、コストは同等。非常に稀なものの、TAPP法は内蔵損傷とポートサイトヘルニアのリスクがあり、TEP法は血管損傷と術式変更のリスクがある。
・腹腔鏡下手術は鼠径部切開法と比較すると、手術時間が長いものの、術後疼痛、神経損傷、慢性疼痛は軽度で回復が早い。医療コストは高いものの、術後疼痛の軽減、早期回復、早期社会復帰を考慮すると社会医療経済的側面は優れている。ヘルニア再発率は同等。周術期合併症は同等または増加する可能性があるが、術後合併症は減少する。

以上をまとめると、リヒテンシュタイン法と腹腔鏡下手術(TAPP法、TEP法)が推奨されています。

この国際的な鼠径ヘルニアガイドラインは、International guidelines for groin hernia management 2018(Hernia 2018;22:1-165)です。ヨーロッパヘルニア学会(EHS)、国際内視鏡ヘルニア学会(IEHS)、欧州内視鏡外科学会(EAES)、アメリカヘルニア学会(AHS)、アジア太平洋ヘルニア学会(APHS)、オーストラリアヘルニア学会、アフリカ・中東ヘルニア学会(AMEHS)の7学会が共同で作成したもので、世界のスタンダードと言ってもいいガイドラインです。
» International guidelines for groin hernia management 2018(フリー、英語)はこちら

鼠径ヘルニア(脱腸)にどの手術(術式)を選ぶか?

家族

要点のみを列挙しましたが、それでも推奨内容が複雑で、どの手術を選ぶか悩ましいところです。

両方のガイドラインで推奨されている術式は、リヒテンシュタイン法と腹腔鏡下手術(TAPP法、TEP法)です。これ以外の術式がダメと言っているわけではなく、推奨するだけのエビデンス、根拠が不足しているということです。今後、論文で新たなデータが明らかになると、推奨内容が変更されますので、あくまでガイドラインが発表された時点での推奨です。学会でも未だ議論中であり、まだ最終的な結論は出ていません。

ガイドラインでも述べられていますが、術式の違いは重要であるものの、それ以上に術者の技量が重要で、同じ手術でも術者の違いで成績の報告内容がかなり違います。私個人の意見も、「どの手術を受けるかは重要だけれども、術者の技量の方がより重要である」と考えています。

まとめ:日本及び国際ガイドラインで、リヒテンシュタイン法と腹腔鏡下手術(TAPP法、TEP法)が推奨されています。

この記事のポイントをまとめます。

  • 日本のガイドラインでは、鼠径部切開法と腹腔鏡下手術の中で術者が習熟した方法で行うことが推奨されています。
  • 国際的なガイドラインでは、リヒテンシュタイン法と腹腔鏡下手術(TAPP法、TEP法)が推奨されています。
松下公治 写真

松下「鼠径ヘルニアの手術は、どの手術を受けるかは重要だけれども、術者の技量の方がより重要だと考えています。また、病状や年齢、基礎疾患などによって、個々の治療方針は違ってきますので、主治医とよく相談することが大切です。」

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