鼠径ヘルニア(脱腸)の治療:手術しないで放置するとどうなるか?

鼠径ヘルニア

質問

鼠径ヘルニアと診断された患者「鼠径ヘルニアと診断されましたが、手術しないで様子をみるとどうなりますか?」

こうした疑問に答えます。

本記事の内容

鼠径ヘルニアの標準治療は手術です。では、手術しないで放っておいたらどうなるのでしょうか?

鼠径ヘルニアを専門としている私が疑問に答えます。

鼠径ヘルニア(脱腸)の標準治療はなにか?

手術

鼠径ヘルニア(脱腸)とはお腹の壁(腹壁)に穴があいて、そこから腸や脂肪(大網)が脱出しています。タイヤがパンクしているのと同じような状態です。そのため成人では自然に塞がることはなく、穴を塞ぐ手術が唯一の治療です。

鼠径ヘルニアの治療方法は手術以外にありません。以前は穴を糸で縫って塞いでいました。しかし痛みが強く、回復に時間がかかり、再発が多いことから、現在ではメッシュによる補強が標準治療になっています。

鼠径ヘルニア(脱腸)を放置するとどうなるか?

書斎

日本の鼠径ヘルニアガイドラインは?

・成人鼠径ヘルニアは、自然治癒しません
・嵌頓している場合や嵌頓の危険が高い場合は、全例手術が推奨されます。
・嵌頓の危険が低く、症状が軽い場合も、手術を推奨します。ただし、十分にリスクを理解した上で、注意深く経過観察することは許容できます。嵌頓の発生率は年間で1%程度ですが、嵌頓時の緊急手術での死亡率は4.0-5.8%です。
・経過観察した場合は、痛みなどの症状で年に10%程度が手術となります。

国際的な鼠径ヘルニアガイドラインは?

・男性の無症状または軽症の鼠径ヘルニアでは、絞扼などの合併症は少ないです。
・男性の絞扼性鼠径ヘルニアの緊急手術は、予定手術より死亡率が10-20倍高いです。
・症状の軽い男性の鼠径ヘルニアでは、大部分が痛みの悪化で手術となります。ただし、注意深く経過観察することは、合併症が少ないので安全です。
・手術のタイミングは社会的環境や仕事の都合や健康状態を考慮します。予定手術は緊急手術よりも死亡率が低いことを考慮する必要があります。

鼠径ヘルニアが自然に治ることはあるか?

大人の場合は自然に治りません。腸管が脱出する部位には筋肉がありませんので、筋トレをしても治りません。また、ヘルニアバンドで押さえても、手でおさえているのと同じ状態ですので、治ることはありません。残念ながら、手術以外に治療法はありません。通常、徐々に悪化していきます。

鼠径ヘルニアの手術をしないと、嵌頓しないか心配ですが大丈夫?

腸管が脱出し、締め付けられたまま戻らなくなった状態が嵌頓です。足のつけ根の膨らみが硬くなり、横になっても手で押しても戻らない状態です。腸閉塞、腸管壊死、腸管穿孔を起こし命に関わるので、緊急手術が必要になります。嵌頓するリスクは1年間で0.3〜3%程度ですので、それほど心配する必要はありませんが、発症した場合は急を要しますので、すぐに救急外来に受診してください。

鼠径ヘルニア(脱腸)を手術しないで、様子をみてもいいか?

公園

緊急性はありませんが、徐々に悪化することが多く、自然に治ることはないので、悪化しないうちに手術することをお勧めします。鼠径ヘルニアの治療は手術以外にありません。お腹の壁に穴が開いているので、塞ぐしか治す方法がありません。

しかし、症状が軽ければ、リスクを十分に理解した上で、慎重に経過をみることも許容されます。標準治療である手術をしない場合は、2つのリスクがあるので、その理解と注意が必要です。主治医とよく相談することが大切です。

手術をしない場合の2つのリスク

  1. 嵌頓するリスク
  2. 鼠径ヘルニアが悪化するリスク

1. 嵌頓するリスク

嵌頓するリスクは1年間で0.3〜3%程度です。しかし、嵌頓の緊急手術は死亡リスクが高い(4.0-5.8%)だけでなく、開腹手術になることが多く、治療に時間がかかります。

2. 鼠径ヘルニアが悪化するリスク

痛みなどの症状が悪化し、毎年10%程度が結局は手術を受けることになるので、症状が軽くて手術が容易なうちに手術した方がいいかもしれません。術前に痛みが強いと、術後にも痛みが残りやすく、悪化して手術に難渋すると、合併症のリスクが増加します。

まとめ:鼠径ヘルニアの治療は手術が推奨されます。ただし、症状が軽ければ、リスクを理解した上で経過観察することも許容されます。

この記事のポイントをまとめます。

  • 成人の鼠径ヘルニアは、自然治癒せず、手術が推奨されます。
  • 十分にリスクを理解した上で、注意深く経過観察することは許容されます。
  • 嵌頓のリスクは、年に1%程度です。
  • 鼠径ヘルニアを放置すると、痛みなどが悪化し、毎年10%程度が手術となります。
松下公治 写真

松下「鼠径ヘルニアでは、結局は悪化して手術になることが多いので、軽いうちに手術して治すことをお勧めします。ただし、病状や年齢、基礎疾患などによって、個々の治療方針は違ってきますので、主治医とよく相談することが大切です。」

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