なぜ「絶対に治るので大丈夫です」と医師は言えないのか?【医療の曖昧さとの葛藤】

医療の雑学

疑問

治療の説明を受けた患者「なぜ医者は絶対治るので大丈夫と言ってくれないのですか?」

こうした疑問に答えます。

本記事の内容

医師が患者さんやその家族に治療の説明をする時、絶対に治りますとか、100%大丈夫ですとは言いません。
そう言いたいのに、なぜ医師はそう言えないのでしょうか?

これまで多くの病状説明、手術説明をしてきた外科医の私がお答えします。

医療の曖昧さとはどういうこと?

人

医療は曖昧で不確実です。

例えば、同じ病気と診断された患者さんが100人いた時に、Aという薬を全員が使います。その結果、100人が治り、悪化や副作用が全くないことが理想的です。

しかし、実際の現場では、90人は治ったものの、5人は悪化して手術となり、4人は副作用が出て治療が必要となり、1人は死亡してしまうといった結果になります。もし治療をしなければ、70人は悪化し、30人は自然に治るとします。

そのことを知っている医師が説明すると、「このまま治療をしないと悪化します。Aという治療をすれば大抵は良くなるので、治療をしましょう」といったような曖昧な説明になってしまいます。

更に丁寧に説明すると、治療をしても悪化したり死亡することもありますとか、治療をしなくても治ることもありますと話します。正直に話せば話すほど、患者さんは段々と治療をしたくなくなり、不安になることもあります。

逆に、「絶対に治ります、100%大丈夫ですので、Aという治療をしましょう」と言ったらどうでしょうか。その場では安心してもらえるかもしれませんが、治療の限界や危険性は隠したことになります。悪化した場合は、そんなことは聞いていないと怒る人もいます。

では実際にどうしているかというと、ある程度事実を伝えながら、過度に不安にはならないように配慮して説明しています。

この設定では90%が治るので、まだいいものの、もっと治療成績が良くない治療もたくさんあります。なんでそんな治療をするのかと思うでしょうが、治療をしないより良い結果が予測されるからです。天秤にかけて比較し、より良いと推測される方を選びます。

医療は〇〇で成り立っています。〇〇とは何でしょう?

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答えは、臨床研究です。つまり、医療は臨床研究で成り立っています。

Aという薬が治療で使われるには、まず、同じ病気の患者さんを集めて、2つの群に均等に分けます。一方にAという薬を使い、もう一方は何もしないで経過観察をします。Aが80%治り、経過観察が60%治った時、統計学的に有意差があると、Aの方が効果があると判断され治療薬となります。

更に医療が発展すると、新薬のBという薬が開発されます。すると同様にして、同じ病気の患者さんを集めて、2つの群に均等に分けます。一方にAという薬を使い、もう一方はBという新薬を使います。Aが80%治り、新薬Bが85%治ったとすると、BはAと同等の効果があると判断され治療薬となります。

こうした臨床研究を積み重ねて、医療は成り立っています。最もシンプルな臨床研究は、同じ病気の患者さんを2つに均等に分けて、AとBの治療を比較して、その結果をみる方法です。

しかし、実際にはもっと複雑です。ある臨床研究ではAの方が結果が良かったのに、違う臨床研究ではBの方が結果が良いことが起こります。そうすると判断できなくなってしまうので、似た臨床研究をたくさん集めてきて、臨床研究同士を比較します。そして、Bの方が良い傾向があると、Bの方が優れていることになります。

わかっている事実と、わかっていないことと、その解釈を分けて考えましょう

人々

わかっている事実とは、これまでの臨床研究で明らかになった事実のことで、わかっていないこととは、これまでに臨床研究が行われておらず、現時点ではわかっていないことです。その解釈とは、これまでの臨床研究でわかっていることを考慮した上での、個人的な意見のことです。

世の中では結構混同されていることが多いです。特に、テレビやネット上の情報は、混ざっていることがあるので注意が必要です。書かれていることは事実なのか、解釈なのか、はっきりさせるべきです。

医師が治療について話す時に考えていることは、「わかっている事実に基づいて、本人やその家族の意向を汲み取った上で、どう解釈し判断したら良いか」ということです。

医療が発展するにつれて、わかっている事実が増えることは嬉しいことですが、同時に選択肢もどんどん増えて、わかっていないことも同時に増えていきます。わかっている事実に基づいて、どう解釈し判断するかが重要です。

まとめ:医療は曖昧で不確実なことが多いです。

この記事のポイントをまとめます。

  • 選択に迷った時には、天秤にかけて比較し、より良いと推測される方を選びます。
  • 医療は臨床研究で成り立っています。
  • わかっている事実に基づいて、どう解釈し判断するかが重要です。
松下公治 写真

松下「医療における選択は人生の選択と似ていて、実際にやってみないとわからないことが多いです。」

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