急性虫垂炎(盲腸)は病状によって治療法が違います
まず重要なことは、診断が急性虫垂炎かどうかということです。CT検査などで精査しても、はっきりしないことや、他の疾患が疑わしいことも多く、典型的な症状でない場合は注意が必要です。
急性虫垂炎の診断が確定すると、病状は大まかに3つに分類できます。
- 非穿孔性虫垂炎
- 穿孔性虫垂炎による汎発性腹膜炎
- 穿孔性虫垂炎による限局性膿瘍
1. 非穿孔性虫垂炎
虫垂に穴が開く前の状態で、多くの急性虫垂炎はこれです。基本的には緊急手術です。ただし、炎症が軽い場合は抗菌薬で散らすこともあります。
2. 穿孔性虫垂炎による汎発性腹膜炎
虫垂に穴が開いてしまった状態で、お腹全体に炎症が広がっており、緊急手術になります。放っておくと、全身に菌が広がって敗血症となり、更に多臓器不全になると命に関わります。
3. 穿孔性虫垂炎による限局性膿瘍
発症から診断までに2日以上経過していることが多く、虫垂に穴が開いたものの、お腹全体に炎症が広がらずに、膿状に一塊になり限局している状態です。この状態で手術をすると周囲の腸管も一緒に摘出しなければならない可能性が高くなってしまいます。
まずは、体外から針を刺して膿を出して、抗菌薬で治療することで、感染をコントロールします。炎症が治まってから手術を検討します。
急性虫垂炎(盲腸)で手術するとどうなるか?
急性虫垂炎では、手術で腫れた虫垂を切除します。腹腔鏡を用いて観察し、虫垂(上図の白矢印)を見つけて、虫垂間膜を処理し、虫垂の根部(上図の黒矢印)を糸でしばって、虫垂を切除します。
手術時間は約20-60分、翌日から食事を再開し、術後2日目に退院できます。穿孔し腹膜炎が広がっている場合は、3-5日間の点滴抗生剤治療が必要ですので、1週間程度の入院が必要となることが多いです。
炎症がひどくて虫垂根部で切れない時は、開腹に移行したり、周囲の腸も一緒に切除して腸同士を繋ぐこともあります。
急性虫垂炎(盲腸)を抗菌薬で散らすとどうなるか?
抗菌薬は細菌をやっつける薬です。点滴する抗菌薬と内服できる抗菌薬があり、点滴する抗菌薬の方がよく効きます。点滴する抗菌薬は1日3回投与するものが多いです。
入院して、絶食で抗菌薬を点滴し、痛みや炎症所見が改善したら、食事を再開して退院となります。抗菌薬で散らそうとしても、約10%は入院中に悪化し緊急手術となります。
急性虫垂炎(盲腸)は手術すべきか、抗菌薬で散らすか?
急性虫垂炎に最も推奨されている治療は迅速な手術です。しかし、非穿孔性虫垂炎は、入院して抗菌薬で散らしても、90%は治すことができるので、抗菌薬で散らすことは大抵可能と言えます。
標準治療である手術をしない場合は、3つのリスクがあるので、その理解と注意が必要です。
手術をしない場合の3つのリスク
- 悪化するリスク
- 再発のリスク
- 腫瘍のリスク
1. 悪化するリスク
入院し絶食で抗菌薬を投与しても、悪化して手術となってしまう可能性は約10%です。糞石があると穿孔しやすくなります。
2. 再発のリスク
治癒し退院した後に再発する可能性は、退院後5年以内に約40%です。
3. 腫瘍のリスク
急性虫垂炎の原因の約1%が、腫瘍による閉塞です。腫瘍が潜んでいるリスクがあります。特に40歳以上ではリスクが高くなるので、大腸内視鏡検査とCT検査をお勧めします。
特に再発のリスクは結構高く、いつ発症するかもしれないことは大きな問題です。平均すると初回の発症から4-7ヶ月で再発し手術になったという報告もあります。若い人に多い病気ですので、試験などの大切なイベント、大切な仕事、海外渡航中などのタイミングで発症するリスクが問題となります。
抗菌薬で散らした後、どうしたらいいか?
次回再発時に手術するのも選択肢です。または、後日都合のいい時に予定手術を行うことで、再発のリスクと腫瘍のリスクを避けることが可能です。その場合は、日帰り手術も可能なので、大きなメリットです。
まとめ:急性虫垂炎は迅速な手術を勧めますが、穿孔していなければ抗菌薬で散らすこともできます。
・ 非穿孔性虫垂炎であれば、抗菌薬で散らすことは大抵可能です。
・ 手術をしないと、再発と腫瘍のリスクが残ります。
・ 予定手術であれば、日帰り手術も可能です。
質問者 「虫垂炎になってしまいましたが、まず知っておいた方がいいことは何ですか?」 外科医 松下 「急性虫垂炎はお腹が痛くなった時に、まず考える病気で、基本的には手術をして治します。急性虫垂炎を数多く手術し[…]