人を見ていた。だが、構造を見ていなかった

チームの問題は、人の問題である前に、設計の問題だ。

チームがうまく機能していないと気づくのは、
たいてい、何かが起きた後だ。

判断が遅れた。
連絡が抜けた。
誰かが無理を抱えたまま、限界を迎えた。

そのとき私たちは、原因を探す。
あの人のコミュニケーションが足りなかった。
あの場面の連携がうまくいかなかった。

だが、そこで止まってしまうと、
同じことが繰り返される。

目次

「チーム医療」という言葉の息苦しさ

外科医として病院に勤務していた頃、
私は「チーム医療」という言葉を、
どこか息苦しさとともに聞いていた。

仲良くしなければいけない。
波風を立ててはいけない。
本音を飲み込むことも、チームワークの一部だ。

そういう空気が、現場には確かにあった。

医療は、感情の摩擦が起きやすい場所だ。
緊急性、責任の重さ、判断のスピード。
それらが重なる中で、
常に円滑な人間関係を保つことを前提にするのは、
現実的ではないと感じていた。

だが当時の私には、その違和感を言葉にする手段がなかった。
「現場とはそういうものだ」と、
やり過ごすことに慣れていた。

なぜ判断は宙に浮くのか

病院勤務時代、判断が宙に浮く場面を何度も見てきた。

医師は「看護師と相談してから」と言い、
看護師は「医師の指示を確認してから」と言う。
結果として、誰も判断しない時間が生まれる。

そこに悪意はない。
むしろ、お互いを尊重しているからこそ、踏み込めない。

だが医療では、判断が遅れること自体がリスクになる。

そのとき私は、何を見ていたのか。

人間関係を見ていた。
誰が誰と仲がいいか、誰が浮いているか。
雰囲気が良いか、悪いか。

だが本当に見るべきだったのは、
役割と判断のラインが、どこにあるのかだった。

仲の良さより、役割の明確さ

開業し、医療を運営する側に立ってから、
チームの見え方は大きく変わった。

仲が良いかどうかより、
役割が明確かどうかの方が、はるかに重要だと気づいた。

誰が判断するのか。
誰が最終責任を持つのか。
どこまでが現場の裁量で、どこからが相談すべき場面なのか。

これが曖昧なままだと、
どれだけ人間関係が良好でも、現場は必ず混乱する。

逆に言えば、
この線が明確であれば、
人間関係が完璧でなくても、チームは機能する。

ピーター・ドラッカーは、
組織の目的とは、普通の人が普通でない成果をあげられるようにすることだと述べている。

特別に優秀な人や、特別に相性の良い人がそろわなければ回らないチームは、
組織として設計されていない。
私はこの言葉を、そう受け取っている。

判断のラインを言語化する

開業後に取り組んだのは、
この「判断のライン」を言語化することだった。

「この条件を満たした場合は、必ず医師が判断する」
「この範囲までは、現場の裁量で動いてよい」

一つひとつは地味だ。
だが、この線を引くだけで、現場の迷いは驚くほど減った。

誰かに遠慮して判断を先送りする時間が、明らかに少なくなった。
「確認してから」という言葉が持っていた曖昧さが、
少しずつ消えていった。

役割が見えると、関係は楽になる

不思議なことに、
役割が明確になると、人間関係はむしろ楽になる。

「ここまでは自分の仕事」
「ここからは任せていい」

その線が見えることで、
無用な遠慮や過剰な気遣いが減る。

仲良くしようとしなくても、
仕事として信頼し合える関係が育っていく。

チームに必要なのは、仲の良さではない。
お互いが安心して判断を下せる構造だ。

その安心は、雰囲気から生まれない。
設計から生まれる。

雰囲気で判断することをやめた

経営者として現場を見るようになってから、
もう一つのことが見えてきた。

チームの歪みは、表に出にくい。

誰かが無理をしている。
誰かが本音を飲み込んでいる。
誰かが判断を抱え込んでいる。

それらは、日常の忙しさの中に埋もれていく。
問題が表に出るのは、限界を超えた後だ。

だから私は、
チームの状態を「雰囲気」で判断することをやめた。

誰が何を引き受けているのか。
どこに判断が集中しているのか。
声を上げにくい構造になっていないか。

それを定期的に言葉にし、
確認し合う時間をつくるようにした。

私は何を見ていなかったのか

チームが機能しなかったとき、私は何を見ていなかったのか。

今ならはっきり言える。

人を見ていたが、構造を見ていなかった。
雰囲気を感じていたが、設計を問うていなかった。
関係性を気にしていたが、判断のラインを引いていなかった。

誰が悪いのかを探しても、現場は変わらない。
何が機能していないのかを問い直したとき、
初めて変えられる。

まとめ

チームの問題は、人の問題である前に、設計の問題だ。

チームは、仲良しである必要はない。

だが、お互いが判断を下しやすい構造の中で、
安心して意見を交わせる関係は必要だ。

その関係を時間をかけてつくっていくことが、
経営者として、外科医として、
私が今も続けている仕事のひとつだ。

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この記事を書いた人

松下 公治のアバター 松下 公治 ヘルニア外科医

医療法人博文会 理事長・埼玉外科クリニック 院長
内視鏡外科技術認定医(ヘルニア)
鼠径ヘルニア手術2,500件超・日帰り手術6,000件超
腹腔鏡による鼠径ヘルニア日帰り手術の質向上に取り組む

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