自分が手術を受ける側だったら、何を知りたいか。
「実際に受けたら、どうなるのか」だ。
その答えを、一例の体験談ではなく、全体の数字で示したいと思った。
「見えない情報」に、自分ならどう答えるか
以前、「外科医は誰に手術を任せるのか」という記事を書いた。
外科医である私でも、自分の執刀医を確信をもって選べるとは限らない。
判断に必要な情報が、外科医にとってさえ十分に公開されていないからだ。
そう書いた。
では、選ばれる側として、自分は何を示せるのか。
考えるときの軸は、いつも同じだ。
自分が患者側だったら、どうしてほしいか。
その問いへの答えの一つが、手術成績の公開だ。
当院では、開業したときから手術成績を公開している。
手術の件数だけではない。
手術時間、術後の痛み、日帰り手術で帰宅できた割合、再発、合併症、日常生活や仕事に戻るまでの日数。
そうした数字を、まとめて示している。
開業したとき、クリニックとしての実績はなかった
病院に勤めていた頃は、病院が公開している情報以外を、個人で公開することは難しかった。
それに、病院には病院のブランドと信用がある。
患者さんの多くは、その信用を頼りに来院しているのだと思う。
それが公開しない理由になるとは思わない。
ただ、個々の医師の成績が見えにくい背景には、そうした構造もある。
開業したとき、新しいクリニックには、病院のようなブランドはなかった。
医師として積み重ねてきた実績はある。
執刀経験や学会発表、論文は、ホームページで公開している。
けれど、それは医師としてのこれまでの歩みだ。
このクリニックで手術を受けたらどうなるのか、という問いへの答えには、まだならない。
クリニックとしての実績は、開業した日から一例ずつ積み上げていくしかない。
だからこそ、その結果を最初から示していこうと思った。
自分が何をしていて、その結果がどうなっているのか。
それを示すことが、知ってもらういちばんの近道だと考えた。
実際に手術したら、どうなるのか
痛みのスコアや、社会復帰までの日数まで載せているのには、理由がある。
手術を受ける人が本当に知りたいのは、手術が成功するかどうかだけではない。
手術の後、どのくらい痛むのか。
いつから普段の生活に戻れるのか。
仕事は、いつから再開できるのか。
口コミを読めば、ある程度はわかる。
けれど、口コミは一人の体験だ。
その人がたまたま楽だったのか、たまたま大変だったのかは、外からは判断できない。
一人の体験ではなく、全体としてどうなっているのか。
それを示すことが必要だと考えた。
自分で集めた数字には、限界がある
公開している数字には、限界もある。
当院の成績は、自分たちで記録し、集計したものだ。
第三者が検証した数字ではない。
再発や慢性的な痛みは、症状があれば患者さんから連絡してもらう形で把握している。
だから、すべてを完全に把握できているとは限らない。
ただ、当院では、手術の前から後まで、患者さんと電話で連絡を取り合っている。
何かあれば連絡してくれている、という実感はある。
それでも、限界があることに変わりはない。
数字は、目的ではなく結果だ
数字をよく見せる方法は、いくつもある。
都合のよい数字だけを選んで載せることもできる。
難しい手術を避ければ、成績は整って見えるかもしれない。
けれど、私は数字のために診療をしているわけではない。
数字を気にして、手術の判断を変えたことはない。
目の前の患者さんにとって、何が望ましいか。
その判断を一例ずつ積み重ねた先に、数字がある。
数字は、あくまで結果だ。
だからこそ、数字はごまかせない記録になる。
結果としての数字を、そのまま示す。
それが、公開する意味だと思っている。
公開することは、内情をさらすことでもある
医療に限らず、成績を公開していない組織のほうがほとんどだ。
公開しないこと自体が、悪いことだとは思わない。
成績を公開することは、クリニックの内情をさらすことでもある。
よい数字だけが並ぶとは限らない。
ためらう気持ちは、よく理解できる。
それでも、私は公開することを選んだ。
自分が患者だったら、見えない数字より、示された数字をもとに選びたいと思うからだ。
隠すのではなく、示すこと。
それが、クリニックとしての誠実さだと考えたからだ。
公開した数字は、自分を縛る
公開して、変わったことがある。
成績を見たうえで受診する患者さんが増えた。
手術後の経過をある程度わかったうえで来てくれるので、外来での説明が伝わりやすくなった実感がある。
一方で、公開することには緊張感も伴う。
示した数字は、次の手術でも守らなければならない約束になる。
数字を公開した瞬間から、その数字に見合う手術を続ける責任が生まれる。
その緊張感は、決して楽なものではない。
けれど、手術の質を保つための、よい重しになっていると感じている。
比べるためではなく、知ってもらうために
手術成績は、患者さんによって変わる。
同じ数字が、すべての人に当てはまるわけではない。
だから、公開している数字は、ほかの施設と優劣を比べるためのものではないと考えている。
当院でどんな人が執刀し、どんな手術をしていて、その結果がどうなっているのか。
それを知ってもらうための材料だ。
数字は、判断材料の一つにすぎない。
けれど、何も示されていない状態よりは、選ぶための手がかりになるはずだ。
まとめ
手術を受ける人が知りたいのは、「実際に受けたら、どうなるのか」だ。
その問いに、一例の体験談ではなく、全体の数字で答えたいと思った。
クリニックとしての実績は、開業した日から積み上げるしかない。
だから、最初から結果を示すことにした。
数字には限界があることも、正直に認める。
数字は目的ではなく、一例ずつの判断を積み重ねた結果だ。
公開した数字は、自分を縛る。
その緊張感とともに、次の一例に向き合っていく。
自分が患者だったら、どうしてほしいか。
これからも、その問いを判断の軸にしていきたい。
