「なんのために」を問うまで、私の判断には軸がなかった

判断の軸は、数字からではなく、「なんのために」という問いから生まれた。

目次

経営計画は、数字の話だと思っていた

経営計画を立てるという作業を、
私は最初、数字の話だと思っていた。

売上の目標。
患者数の見通し。
コストの管理。

どう増やし、どう抑えるか。
数字を並べれば、経営計画になると思っていた。

だが、数字の前に問わなければならないことがあった。

この組織は、何のために存在するのか。

それが定まっていない計画は、
行き先の書かれていない地図と同じだった。

ミッションは、壁に掲げるものだと思っていた

ミッションという言葉がある。

企業理念、経営理念、存在意義。
呼び方はさまざまだが、要するに、なぜここにいるのか、だ。

私はかつて、この言葉を、
大企業が壁に掲げるものだと思っていた。

自分のクリニックにも、自分の人生にも、
そこまで大げさなものは要らない、と。

それは、誤りだった。

軸がないと、判断は流される

ミッションがないと、何が起きるか。

判断に、軸がなくなる。

新しい依頼が来たとき、受けるべきかどうかが分からない。
時間をどこに使うべきか、基準がない。
何かをやめるべきときも、見えない。

良さそうだから。
頼まれたから。
なんとなく。

そうした理由で判断を重ねていくと、
数年後、まったく意図していなかった場所に立っている。

経営で言えば、戦略のない事業の拡散だ。
人生で言えば、方向のない忙しさだ。

ミッションは、具体的で個人的なものだ

では、ミッションはどこから来るのか。

与えられるものではない、と思っている。

社会の役に立ちたい、という言葉はきれいだが、軸にはならない。
医療を良くしたい、も、広すぎて判断の基準にならない。

ミッションは、もっと具体的で、もっと個人的なものだ。

そして、大げさである必要もない。

家族が安心して暮らせる環境をつくること。
自分の専門性で、誰かの選択肢を一つ増やすこと。

それで十分だ。
大切なのは、判断に迷ったときに立ち返れる言葉であることだ。

私のミッションが、言葉になるまで

私の場合、それは長い時間をかけて、少しずつ言葉になっていった。

手術の常識を打ち破り、日帰り手術で感動を!

感動という言葉を使うことには、最初は抵抗があった。
医療は、感情ではなく、技術と安全で語るものだと思っていたからだ。

だが、考え続けるうちに気づいた。

入院を前提としてきた手術を受け、その日のうちに自宅へ帰る。
その経験を終えた人が、こんな手術の受け方もあったのか、と思う。

そういう瞬間があるなら、
それは確かに、感動と呼べるものだと思えた。

理想の日帰り手術を追求し続ける、というヴィジョンも、この問いから生まれた。

ヴィジョンとは、ミッションの先に描く、目指す姿だ。
大切なのは、追求し続ける、という部分にある。
完成はない。常に更新される目標として、前に置き続ける。

誰に、何を届けるのか

ミッションが定まると、次に問うべきことが見えてくる。

誰に、どんな価値を、なぜ自分から届けるのか。

経営では、これをバリュープロポジションと呼ぶ。

私にとっては、日帰り手術という選択肢を必要とする人に、
鼠径ヘルニアを専門とする外科医であり、経営者でもある立場から、
入院を前提としない手術の形を届けることだ。

ミッションが「なぜ」に答えるものだとすれば、
バリュープロポジションは「誰に、何を」に答えるものだ。

この二つが揃って初めて、進む方向が定まる。

深めることと、探すこと

方向が定まってから、特に意識するようになったことがある。

知の深化と、知の探索のバランスだ。
チャールズ・A・オライリーとマイケル・L・タッシュマンの『両利きの経営』で、広く知られるようになった考え方である。

深化とは、すでに持っているものを磨くことだ。
探索とは、まだ持っていないものに踏み出すことだ。

深化だけに偏れば、専門性は高まるが、世界は狭くなる。
外側の変化に、気づけなくなる。

探索だけに偏れば、視野は広がるが、どこにも根が張れない。

私は医師として、長く深化に軸を置いてきた。
技術を磨き、症例を重ね、学会で知識を更新してきた。

経営者になって、否応なく探索を迫られた。
財務、人事、マーケティング、法務。
医学とはまったく異なる言葉の世界だった。

最初は苦痛だった。
だが次第に、外科医としての視点が、経営の判断に活きることに気づいた。

探索した知識が、深めてきた専門性と組み合わさって、
自分なりの判断の形ができていった。

目的のない深化は、自己満足になる。
目的のない探索は、迷走になる。

その両方に方向を与えるのが、ミッションだった。

近づくか、遠ざかるか

経営戦略とは、ミッションと現実のあいだを埋める道筋だと思っている。

どこに時間を使うか。
何を学ぶか。
誰と組むか。
何をやめるか。

これらの判断は、ミッションを基準にすると格段に明快になる。

これは、ミッションに近づくか。
それとも、遠ざかるか。

その問いだけで、多くの迷いが消える。

P.F.ドラッカーは『経営者に贈る5つの質問』で、組織に向けた最初の問いとして、われわれのミッションは何か、を置いた。

この問いを、組織ではなく自分に向け直してみる。

今の自分は、何のために動いているのか。

まとめ

なんのために生きるか、という問いを、
私は長く避けてきた。

大げさに思えた。
答えが出ない気がした。
答えを出すことで、自分を縛りたくなかった。

だが今は、違う。

この問いに向き合うことが、
人生の経営戦略の、最初の一手だと思っている。

答えは、完成しなくていい。
更新され続けるものでいい。

ただ、今の自分はこう答える、という言葉を持っていること。

その言葉が、次の判断の軸になる。

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この記事を書いた人

松下 公治のアバター 松下 公治 ヘルニア外科医

医療法人博文会 理事長・埼玉外科クリニック 院長
内視鏡外科技術認定医(ヘルニア)
鼠径ヘルニア手術2,500件超・日帰り手術6,000件超
腹腔鏡による鼠径ヘルニア日帰り手術の質向上に取り組む

プロフィール詳細

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