自己経営の出発点は、答えではなく問いにある。
組織に向けられた五つの問いを、自分に向け直してみる。
ドラッカーが組織に向けた問い
P.F.ドラッカーは『経営者に贈る5つの質問』で、組織に向けて五つの問いを示した。
われわれのミッションは何か。
われわれの顧客は誰か。
顧客にとっての価値は何か。
われわれにとっての成果は何か。
われわれの計画は何か。
どれも短い。
だが、正面から答えようとすると、簡単ではない。
組織が何のために存在し、誰のために動いているのか。
その根本を問い直すための、シンプルで本質的な問いだ。
同じ問いを、自分に向けたとき
医療法人の経営を始めてから、私はこの問いに何度も立ち返ってきた。
クリニックについてなら、答えられる。
誰に、何を届けたいのか。
何をもって成果とするのか。
だが、同じ問いを自分自身に向けたとき、
すぐには言葉が出てこなかった。
組織のことは考えていても、
自分という存在を、同じ目で見たことはなかった。
私は、自分を一つの組織として運営し続けることを、自己経営と呼んでいる。
自分を診断し、進む方向を定め、意図を持って選ぶ。
自分も、自分を取り巻く環境も変わり続けるから、
その作業に完成はない。
診断も、方向も、立ち位置も、更新し続けるしかない。
その出発点として、
ドラッカーの問いを、私なりに自分へ向けた五つの問いに置き換えてみた。
答えは、すぐに出なくていい。
正解も、ない。
あなたのミッションは何か
なんのために生きているか、という大きな問いではない。
今の自分は、何のために動いているか。
大げさな答えでなくていい。
家族が安心して暮らせる環境をつくること。
自分の専門性で、誰かの選択肢を増やすこと。
それで十分だ。
ミッションとは、判断の軸だ。
何かを選ぶとき、何かを手放すとき、
これは自分のミッションに近づくか、遠ざかるか。
そう問える言葉を持っているかどうかで、迷い方が変わる。
私の場合、その言葉が定まるまでには、長い時間がかかった。
今は、手術の常識を打ち破り、日帰り手術で感動を届けること、という言葉が、判断に迷ったときの拠り所になっている。
あなたの強みは、言葉になっているか
強みは何か、と聞かれて、
他人の言葉を借りずに答えられるか。
強みは、完璧でなくていい。
突出した才能でなくていい。
自分が自然にやっていて、ほかの人には簡単ではないこと。
それを一つでも言葉にできているか。
私自身、ヘルニアの日帰り手術の知識も、腹腔鏡の技術も、経営者としての視点も、
一つずつ取り出せば、上には上がいる。
強みとして言葉にできたのは、それらの組み合わせに目を向けてからだった。
手術の現場を知る者が、経営の側から日帰り手術の仕組みを考える。
その重なりなら、自分の言葉で語れると思えた。
言葉になった強みは、自分がどこに立つかを決める土台になる。
あなたの時間とエネルギーは、今どこに向かっているか
先週の予定を、見返してみると分かる。
会議、対応、依頼、義務に使った時間。
自分が本当に重要だと思うことに使った時間。
その二つを比べたときの差が、自己経営の現在地だ。
責めるために見るのではない。
知るために見る。
知らなければ、変えられないからだ。
私も、まだこの差を埋めきれてはいない。
診療と経営の両方を抱えていると、予定は気づけば目の前の対応で埋まっていく。
三年後になっていたい自分に近づくために、
今週、何か一つ手放せるものはあるか。
あなたは今、自分の意志で選択しているか
求められたから動いているのか。
自分が動くと決めたから動いているのか。
その違いは、傍から見れば同じに見える。
だが、積み重なったとき、まったく違う場所に辿り着く。
今日の行動のうち、自分がやると決めたものはいくつあったか。
仕方なく、という言葉を、何度使ったか。
主体的に生きるとは、
状況に反応して動くのをやめ、自分の軸から選ぶことだと思っている。
すべてを変える必要はない。
今日、一つだけ、自分がそう決めたと言える行動を選べるか。
あなたは今、楽しんでいるか
最後の問いが、これだ。
楽しむことは、軽い話ではない。
楽しんでいるとき、人は最も力を発揮する。
楽しんでいるとき、人は今ここにいる。
楽しんでいるとき、人は生きていると感じる。
私自身、手術を面白いと感じているときほど、所見を見る目が鋭くなる。
経営の問題も、面白がれているときのほうが、解決の糸口が見えやすい。
楽しめていないとすれば、なぜか。
方向が見えていないからか。
意味を感じられていないからか。
誰かの期待に応えることだけに、疲れているからか。
その理由を正直に見ることが、次の問いになる。
楽しむことは、与えられるものではない。
設計できるものだと、私は思っている。
問いは、答えが出ても終わらない
問いは、答えが出た瞬間に終わるものではない。
答えが更新されるたびに、また深まっていく。
診療でも、一度の診断で終わりにはしない。
経過を見て、所見が変われば、診断も見直す。
自分への問いも、同じだと思う。
去年の自分が出した答えと、今年の自分が出す答えは、きっと違う。
それでいい。
自己経営に、完成はない。
だが、問いを持ち続けている人と、持っていない人とでは、
五年後、十年後に、確かな差が生まれると私は信じている。
正しい答えを急ぐより、問いを手放さないこと。
それが、自己経営の出発点だ。
まとめ
外科医として、経営者として、
私はこれからも、この五つの問いを自分に向け続ける。
判断の軸を持つこと。
強みを言葉にすること。
自分の現在地を知ること。
意図を持って選ぶこと。
そして、今を楽しむこと。
五つのうち一つでも、
読んでくださった方の手元に残る問いがあれば、うれしい。
